週末や連休、長期休暇など、カレンダーを眺めて旅行を楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。
近年、観光産業の需要は高まっており、街中でも新しいホテルが建設されている風景をよく目にします。
しかし、本当に旅行業界に明るい未来はあるのでしょうか?
今回は、実際に旅行業界に身を置く私が感じている事についてお話したいと思います。
旅行業界に未来はない?「コロナ渦で見えた現実」
全てがネットの時代に「航空券・ホテル・ビザ」
海外旅行では住み慣れた日本を離れて、知らない土地へと足を運ぶ事で、普段見ることの出来ない絶景を目にしたり、新しい文化に触れたりと、普段の生活では味わう事の出来ない感動や興奮があります。
しかし、そこは海外。言語や文化、法律も日本とは大きく異なるので、国内旅行に比べるとハードルが高いのも事実です。
そんな手助けをしてきた機関の一つとして、旅行会社というのがありました。
専門的な知識や独自の情報網、大使館(領事館)や航空会社、ホテル等の関連機関とのコネクションによる優遇措置など、様々な専門性により旅行者を希望する国や地域へと送り出してきました。
しかし、インターネットの普及と共に、旅行会社の専門性や優位性が失われつつあるのが現状です。
現地の最新情報は誰でも入手可能
最も入手が困難であった現地の最新情報についても、各種SNSや個人ブログ、旅行体験の掲載サイトの普及により、現地の情報の入手が以前に比べて非常に容易になってきています。
「地球の歩き方」などの専門誌ですら、絶対的な優位性に揺らぎが生じているのではと感じています。著名な観光地であればインターネットで名前を入力すれば様々な情報がヒットし、特殊な観光地であっても、そのような観光地に興味を持つような玄人旅行者であれば、情報を集めるコツをしっているので、一般的な書籍に載っている内容以上の情報を入手する事が出来ます。
航空券やホテルは価格競争が激化
ひと昔であれば、航空会社やホテルが代理店である旅行会社に「特別価格」で商品を卸していましたが、現在は自社のホームページでの直販に力を入れており、旅行会社での購入の方が手数料の分割高になる状況に陥っています。
また、比較サイトの続出により価格競争も激しさを増しています。比較サイトで重要視されるのは当然のことながら価格であり、検索順位が下になるほど誓約率も極端に下がる為、常に上位に表示されるように低価格の維持と更新が求められ、航空会社やホテルから入荷の原価ギリギリとなる事も珍しくありません。
取扱数の多い大手旅行会社は入荷単価や販売手数料等での優遇がある為、価格競争に勝ち常に上位表示が可能となりますが、中小規模の旅行会社には限界がある為、「+αのサービスの追加」等、価格面以外での差別化に力を入れていますが、価格の壁を超えるには至らないのが実情です。
「通訳不要」言語の壁はテクノロジーが超える
海外旅行の最も大きな壁の一つとして、言葉の壁がありました。英語圏であれば中学~高校、大学等で触れている為、ある程度は対応出来る事もありますが、それ以外の国や地域では長期の留学経験者などを除いて対応が難しい為、添乗員や通訳の存在が大きかったです。
しかし、時代の変化と共に、言葉の壁というのは取り払われつつあります。
▼世界各国で海外留学経験者の増加
日本から海外への留学経験者の増加により英語圏、アジア、ヨーロッパなど様々な地域への留学が増えており、また世界各国でも世界共通語と言われる英語の流通により、少し昔までは英語が通じなかった国や地域でも旅行程度の活動であれば、問題ない場面が増えてきています。
▼各国の観光産業の発達により旅行者の受け入れ態勢の強化
世界各国の観光産業の発達により、空港や市内、主な観光地における旅行者の受け入れ態勢が整ってきている事で、現地の言語を堪能に扱えなくともある程度は活動が可能になりつつあります。
▼スマートフォンで通訳が可能に
そして何よりも大きいのが、テクノロジーの進化です。
文字や文章にスマートフォンのカメラを向ければ瞬時に翻訳してくれ、スマートフォンに向かって話しかければ、自動的に言語を変換してスマートフォンが話してくれるなど、スマートフォンが簡易的な通訳の機能の果たすようになっています。
以前は英語などの主要な言語のみがサービスの対象となっていましたが、近年使用可能な言語は多岐に渡っており、主な観光地域であれば網羅されてきています。
旅行業界に未来はない
旅行業界は利益単価が非常に低い
「募集型企画旅行」や「受注型企画旅行」であれば、ある程度は利益の調整や確保が可能となっているが、現在世間で主流となりつつある「個人旅行」での旅行会社の役割は主に「手配旅行」となるが、この業態では大きな利益を出す事が非常に難しいのが実情である。
- 「募集型企画旅行」パッケージツアーなどがこれに該当し、航空券やホテル、添乗員や通訳など全てのサービスがセットになった商品を販売し、それに旅行者が申し込みを行う旅行スタイル。
- 「受注型企画旅行」社員旅行や修学旅行などがこれに該当し、旅行会社が旅行者の依頼により旅行計画を作成、提案して実施する旅行スタイル。
- 「手配旅行」航空券、ホテル、鉄道、ビザ取得など、旅行の手段やサービスの手配のみを代行して行うもの。
「手配旅行」での販売スタイルは、簡単に説明すると「実費」+「手数料」というスタイルとなっている。
手数料は旅行会社により異なっており、大手の旅行会社であればインターネットで検索すれば直ぐに出てくるので、ここでの詳しい案内は省略するが、一見するとそこそこ良い商売に見えるがそうでも無い。
上述の通り、インターネットの普及により個人で旅行手配の全てを完結出来る事が多い為、旅行会社へくる依頼の絶対数が圧倒的に少ないのである。また、大手の旅行会社では見積りや相談時点で料金が発生する仕組みを取っているが、中小以下の小規模な旅行会社で同じような事をした場合、殆どの場合契約には至らない。
状況によりピンキリだが、例え20万の航空券を販売しても利益は数千円という事も多く、このようなチケットだけだは、例え100枚販売しても利益は100万円にも満たないのである。
同じ事は航空券だけではなく、ホテル手配やビザの代理申請等でも同じ事が言える。
インボイス制度の導入により価格の上乗せが難しい
税に関する詳細は省略するとして、インボイス制度の導入により請求書の発行時には「課税対象」とその金額を明記しなければいけなくなりました。
また海外旅行で取り扱う「海外航空券」や「査証申請」には非課税の対象項目も含まれている為、費用明細の細分化が必要となります。
▼海外航空券
非課税:航空券代金や燃油サーチャージ、海外の空港使用料等は非課税。
課税対象:旅行会社の取り扱い手数料、日本の空港使用料
▼査証申請
非課税:ビザ代金(大使館や領事館の発行代金)
課税対象:旅行会社の取り扱い手数料
費用明細の細分化が必要となるという事は即ち、旅行会社の利益が数値として明確になる為、大きく生み出す事が難しくなってきています。
生き残るのはどの旅行会社か
旅行会社と一口に言っても、実に様々な形態が存在している。
▼大手旅行会社
- 全国展開の支店
皆さんが最も想像する旅行会社で、店頭でのパッケージツアーの募集やネットでの航空券やホテルの販売等幅広く展開しているが、ビザ等の特殊な手配は中小企業へと依頼している事が多い。 - 大手旅行会社の法人向け専門部
大手旅行会社の子会社等で企業の出張や海外渡航の手配を専門にする旅行会社。こちらも上記と同じく、内容によっては小規模旅行会社へと依頼している事が多い。
▼中規模旅行会社
- 外資系の在日旅行会社
日本には数多くの外資系企業は存在するがそれは旅行業界でも同じ事が言える。例として表現すれば、日本国内で有名なJTBが海外に支点を置き、海外から日本への訪日旅行の手配を行っているというイメージ。 - 他業種傘下の子会社
海外に工場や支社を持つ大企業では頻繫に海外出張や赴任がある場合、子会社として旅行会社を立ち上げて、自社グループ内で手配を完結しているもの。こちらに関しても、専門的な手配は小規模旅行会社へと依頼している事が多い。
▼小規模旅行会社
- 特化型旅行会社
このタイプは一般的にはあまり知られていないが、店舗は非常にに小規模でも、ある特定の地域に強い専門性を持っているタイプ。知名度こそ低く安心感が低いイメージだが、特定の手配では大手旅行会社よりも知識が豊富で、手配スピードも速い。中小企業や大学との契約を結んでいる事も多い。
先にお話しした通り、時代の変化とテクノロジーの進化により、旅行の主な形態は以前のパッケージツアーから、個人旅行へと移り変わっていっています。
まとめ:コロナ渦で見えた旅行業界の現実
2020年の新型コロナウイルスの蔓延により、旅行、出張、赴任、留学、里帰り等、全ての移動が制限され、日本国内そして世界中で人々の往来が止まった。
これらの内容については、ここでは詳しくは省略しますが、旅行業界も大きな打撃を受けている。大手航空会社の他業種への出向は有名な話だが、それ以外にも各支店の閉鎖、従業員のリストラ、給与カットなどが行われ、この時期に倒産した旅行会社も非常に多い。
世界中を騒がせたコロナウィルスに関しては、新たな変異株の出現がありながらも、共存の方向へと舵が切られているが、今後別の問題が発生した際には、同様の打撃を受ける可能性は十分にある。
コロナ渦と並行して進んだテクノロジーの進化により、旅行業界は大きく変わりつつあります。
これから、旅行業界への入社、転職を考えている方の参考にされば幸いです。